九州05・・・肥薩線 「ふつう列車」乗車記 [鉄道旅行記]
前回からの続きです。
九州新幹線初乗車をかねての九州鉄道旅は二日目。最近の記事はどうも前置きが長すぎるので、今回はさっそく旅の様子へ移りましょう。
3月13日(日)
前日の津波警報による運転規制も解除され、ようやく旅の続きができるようになりました。とは言うものの、残された時間はこの日一日となってしまい、いっときも無駄にすることはできません。早朝6時半から日豊線の上り普通列車で行動開始。
二日目のファーストランナーは415系。
元・常磐線ユーザーの私にはちょっと懐かしい車両です。
11.03.13 鹿児島本線 鹿児島中央
竜ヶ水付近で車窓に広がる錦江湾と桜島。
一度この辺りの景色で列車と絡めた写真を撮ってみたいところ。
11.03.13 日豊本線 竜ヶ水-重富(車窓から)
鹿児島中央0627-(日豊6922M)-隼人0705
この日の行程に私が選んだのは肥薩線。やはり南九州へ来たのなら、スイッチバックあり、ループあり、そして日本三大車窓に挙げられる絶景ありと、鉄的に楽しい要素が盛りだくさんのこの路線は外せません。前回書いたように当初から行程に含まれていた肥薩線乗車ですが予定とは異なり、宮崎側からの吉都線経由ではなく鹿児島側の隼人から肥薩線へ入ることになりました。
隼人からの肥薩線は二連のキハ47。
わずか一分の接続時間だったので、とりあえず面撮りで記録。
11.03.13 日豊本線 隼人
隼人を出た肥薩線は日豊線と分かれて山の方へ向かいます。勾配を上がるにつれて景色もいいはず・・・が、朝靄で車窓は真っ白け。ほとんど何も見えないまま進み、ようやく視界が戻ったときには乗換駅の吉松でした。
隼人~吉松の途中には、古い木造駅舎で有名な嘉例川があります。
観光特急「はやとの風」などは停車時間が長いそうですが、
普通列車では停車時間が短いので、車内から駅名板だけパチリ。
11.03.13 肥薩線 嘉例川(車窓から)
隼人0706-(肥薩4222D)-吉松0809
肥薩線の隼人方面・人吉方面と都城からの吉都線が集まる
「えびの高原線(愛称)」の中心駅・吉松。
二面四線のホームには、各方面への列車が顔をそろえます。
肥薩線の列車はここで運転系統を分けられ、
現在は隼人方面から人吉方面(またはその逆)への
直通列車はありません。
11.03.13 肥薩線 吉松
次に乗る肥薩線・人吉行きが
キハ40の単行で入ってきました。
吉松から乗るのはキハ40が使われる、ふつうの普通列車3252D。「ふつうの普通列車」とはおかしな書き方ですが、肥薩線の吉松~人吉には観光用にアレンジされた「いさぶろう(下)・しんぺい(上)号」が運転されており、この列車も種別上は普通列車扱いなのです。ただし観光列車の方は大半が指定席で、車窓風景や観光を案内をしてくれるアテンダントも乗車しています。観光客には人気の列車なのですが、私はあまりこの観光列車が好きくない。特急「ゆふいんの森」くらいならばいいけれど、やはり肥薩線のローカルな旅情を味わうには余計な装飾や案内放送などが無い、それこそ「ふつうの普通列車=ふつう列車」が一番だと思っています。もちろん、絶景ローカル線に観光列車を走らせるJR九州の試みを否定したりはしません。これはあくまでも私的な考え方。そんな「ふつう列車」に乗って、いよいよ肥薩線のクライマックス「矢岳越え」へと挑みます。
肥薩線「ふつう列車」の横サボ。
真幸駅には鳴らすと幸せになれるという「幸せの鐘」があります。
普段の私なら私利私欲のために鳴らすところですが(苦笑)、
今回ばかりは地震の被災者がひとりでも多く助かるようにと
願わずにはいられませんでした・・・。
11.03.13 肥薩線 真幸
列車は真幸を発車する際に、いったんスイッチバックします。
これは引き込み線(右奥)へ進んでいる途中で、
左が吉松からの線路、右手前がこれから進む人吉方面。
列車は吉松からスイッチバック駅の真幸を経てゆっくりと山を登り続けます。その勾配が落ち着き、いくつかのトンネルを抜けるとパッと開ける車窓風景・・・。そこが霧島連山を望む絶景ポイントで、日本三大車窓のひとつにも挙げられています (残り二つは篠ノ井線姨捨駅からの善光寺平と根室本線の狩勝峠。ただし根室本線の該当区間は1966年に廃線となってしまい、現在では二大車窓に・・・)。
これが日本三大車窓のひとつに挙げられる絶景。
ちょっと解りづらいのですが、右の山すそからちょろっと出ている
雲のような煙は、方角的に新燃岳の噴煙だと思われます。
11.03.13 肥薩線 真幸-矢岳
写真では逆光なのでイマイチですが、実際は本当に雄大な景色。山の展望台とあまり変わらない・・・なんて言ってはいけません。この景色が列車の窓から見えるということが大事なのです。観光列車に乗ればこのポイントで一時停車してアテンダントが丁寧な説明をしてくれることでしょう。でも私が乗っているのは「ふつう列車」。本来、停車はもとより減速もしないはずなのですが、心なしかこの区間はゆっくりと走ってくれたような気がしました。
肥薩線で最も高い標高536.9mの地点に位置する駅、矢岳。
ここは三分停車だったので、外へ出て駅舎を眺めてみました。
前駅の真幸、この矢岳、さらに次の大畑には
開業当時の貴重な木造駅舎がそのまま残されています。
11.03.13 肥薩線 矢岳
三大車窓ポイントから下り勾配を進むようになった列車は、もうひとつの見所である大畑(おこば)のループ線にさしかかります。ループをまわる途中には、これから停車する大畑駅が眼下にチラッと見えるので写真を撮ろうと思ったら、そのポイントを見失ってしまいました。車窓ポイントをひとつ見逃しただけでもちょっと損した気分・・・。列車はループ線で山を下り、さらにスイッチバックで大畑駅の構内へ進入。ループ線とスイッチバックを併せ持つのは全国でもここだけで、大畑駅近くにはそのスイッチバックが一望できる有名な撮影地があります。私がそこへ行ったのは94年で、もう17年も前のこと。
94年に撮影した大畑のスイッチバック俯瞰ポイント。
当時は熊本から宮崎への急行「えびの」が
キハ58で走っていました。
94.08.02 肥薩線 大畑
その後も何度か大畑を通ったものの、天気に恵まれなかったり、時間が無かったりして撮影地まで足を運ぶことはありませんでした。しかし今回は久しぶりにその雄大な景色が撮りたくて、大畑で下車してみることに。一日5往復と本数の少ないこの辺りの列車ですが、私が乗ってきた上り列車と次駅の人吉で交換する下り列車が30分後に大畑へやってくるので、それを狙います。
吉松0906-(1252D)-大畑0952
大畑を発車してゆく単行のキハ40。
飾り気は無いけど、やはりローカル線を楽しむには最適の車両でした。
11.03.13 肥薩線 大畑
立派な木造駅舎の大畑。本来は無人駅のはずですが・・・。
山間の秘境駅・大畑。ところが無人駅のはずの駅舎からはおじさんやおばさんがが一人、二人と出てきて、私を出迎えます。この方たちは休日を中心に大畑駅で地元の野菜や果物などを販売している、その名も「大畑駅を愛する友の会」。こんな秘境駅での物販に需要があるのかとお思いでしょうが、前述の観光列車などは大畑で長時間停車するので、その停車中に買い求める人が多いらしい。しかし今の普通列車から降りてきたのは私ひとり・・・。野菜など買うつもりはないし、正直、目を合わせにくい状況です。冷たいけれど、さっと挨拶程度で切り抜けて撮影地へ向かおう・・・と思っていると、「山の上へ汽車を撮りに行くんですか?よかったら撮影場所までクルマで送りますよ」という何とも意外な言葉を、おじさんからかけられました。どうやらカメラバックと三脚で鉄と判断されたらしい(というより、こんな駅で降りるのは鉄くらいのものか)。ご厚意はありがたいのですが、やはり申し訳ないので「いえ、大丈夫です」と遠慮するも、「重い機材を持って歩くのは大変だから・・・」とおっしゃられ、結局送っていただくことになりました。遠慮していましたが、本当はとても助かります。クルマの中で伺うと、このおじさんは大畑駅の名誉駅長に選ばれた有名な方で、地元の先生。「こんな何も無いところへわざわざ足を運んでくれる方にはできるだけ親切にしたい。とくに自分の故郷のいいところを写真に撮ってくれるのなら、なおさら・・・」と話され、今までに何人も撮影地まで案内したとの事。本当に頭の下がる思いと、自分の心の狭さを痛感させられました。帰りがけに売店で何か買ってゆこう・・・。徒歩で20分ほどと見込んでいた場所にクルマはわずか5分で到着。お礼と帰りは駅まで自力で戻る事を告げて、先生と別れました。クルマを降りた場所から小高い丘を上がると、そこが撮影地。
いつ来ても気持ちのよい大畑の大俯瞰。
スイッチバックが一望でき、先には人吉の街まで見渡せます。
11.03.13 肥薩線 大畑
夏に訪れた以前の写真と比べると今の時期は緑が少なくてちょっと寂しいのですが、スイッチバックの線形を撮るにはスッキリしていて撮りやすいかも。しかし気になるのは空模様。晴れていて青空が広がっているも、風が強くて時折大きな雲が日差しを遮ります。列車の通過時にカゲんなきゃいいけど・・・。そんな不安を感じながら迎えた通過時刻。山間に勾配を上るディーゼルの唸り音が聞こえてきました。
まずは手前の線路から列車が上ってきて、画面左方向にある
大畑駅へ向かいます。この赤い列車が観光列車「いさぶろう号」。
11.03.13 肥薩線 大畑(後追い)
なんとかカゲられずに、ホッと一息。列車は大畑で5分停車の後、スイッチバックのため再び現れます。実は次の水平移動が列車写真として一番まとまりのある画になるので、できればコレをビシッと決めたいところ。しかし列車停車中に頭上を大きな雲が現れます。そして5分後・・・。
引込み線へ向けて左へ水平移動。
あ~、カゲられてマンダーラ(斑)に・・・orz。
11.03.13 肥薩線 大畑
そして矢岳越えのためにループ線への勾配を上って行きます。
こちらも雲が抜け切れずにマンダーラ・・・。
11.03.13 肥薩線 大畑(後追い)
残念ながらすべてがバッチリというわけにはいきませんでしたが、それでもこの大パノラマで撮影できたことに満足。まあ、最初の一枚がカゲられなかっただけでも良しとしましょう。もう当分列車は来ないので、これで撤収して駅まで歩いて戻ります。駅前には先ほど送ってくださった先生が掃除をしていたので、もう一度丁重にお礼を言ってから「友の会」の売店で買い物。さすがに野菜などは買って帰れないので、岩海苔とキクラゲの瓶詰や大畑駅来訪記念のストラップなどを購入し、次の乗車列車までの三時間近くを駅でのんびりと過ごさせていただきました。
次に乗る人吉行きの列車が山の上のループ線に見えてきました。
先ほど撮影した観光列車「いさぶろう号」の折返しで、
上りは「しんぺい号」という列車名になります。
11.03.13 肥薩線 矢岳-大畑
ループ線とスイッチバックを経て大畑駅へ進入する「しんぺい号」。
11.03.13 肥薩線 大畑
観光列車が到着すると、静かだった大畑駅も大賑わいに。
私が着いた時の写真と見比べると、大違いですね。
「しんぺい号」にはアテンダントが乗務します。記念に一枚撮らせていただきました。
今度は観光列車「しんぺい号」に乗車して大畑を後にします。前述したように観光列車はほとんどが指定席で、自由席は車端部のロングシートが数席のみ。その席も埋まっていたので、ドア脇に立って車窓を眺めます。大畑の次は終点の人吉ですから、コレくらいはへっちゃら。
大畑1252-(しんぺい2号)-人吉1303
人吉に入線してきたキハ185系の特急「くまがわ」。
右の倉には「SL人吉」に使われる58654の姿が見えます。
11.03.13 肥薩線 人吉
人吉からは特急「くまがわ」に乗車し、肥薩線のもうひとつの魅力である球磨川の車窓を楽しみます。球磨川は日本三大急流のひとつ。三大車窓の次は三大急流・・・この肥薩線は吉松~人吉の山岳風景と人吉~八代の川景色、異なった二つの車窓を味わうことができるのです。
人吉からの車窓に見えるのは、美しい球磨川の流れ。
11.03.13 肥薩線 一勝地付近(車窓から)
この車窓を眺めながら食べる駅弁は、人吉名物の「鮎ずし」。
球磨川で採れた鮎が一匹丸々使われた、贅沢な駅弁です。
酢でしめた鮎はやわらかく、頭から尻尾まで抵抗無く食べられます。
☆☆☆・・
左岸から右岸へ移動しつつ、ずっと球磨川に沿って走り続けること一時間。肥薩線の起点・八代に到着。これで肥薩線の旅は終わりですが、列車はそのまま鹿児島本線に入って熊本まで行くので、私もそのまま乗り続けます。
人吉1320-(くまがわ4号)-熊本1446
熊本で前日に開業したばかりの九州新幹線へ乗り換え。時刻はまだ15時前ですが、これで九州を後にして神戸へ向かいます。実は翌日の月曜日に神戸での出張仕事を入れており、せっかくなので前日の夜に関西の知人達と神戸で会おうということになったのです。熊本~新神戸ならば山陽新幹線直通の「みずほ」や「さくら」が便利なのですが、ちょうどいい時間帯の「さくら」指定席は満席。仕方なく「つばめ」で博多まで出て、「のぞみ」に乗り継ぐことにしました。でもそのおかげで九州新幹線専用の800系に乗れたのはちょっと嬉しかったかも。
日本の「和」を基本コンセプトとする800系のインテリア。
テーブルやブラインドは木製になっています。
博多に到着した800系の「つばめ348号」。外観も独創的な新幹線です。
11.03.13 山陽新幹線 博多
熊本1504-(つばめ348号)-博多1555~1600-(のぞみ50号)-新神戸1822
これで今回の九州鉄道旅は終了です。予期せぬ震災の影響で予定が大きく変わってしまっただけでなく、やはり心の底から楽しめた旅では無かったように思います。そんななか、出発式は行われなかったものの無事に全通した九州新幹線。確実に九州の鉄道の新たな幕開けになったことは間違いなく、その一番列車に乗れたことは鉄道趣味人冥利に尽きると感じました。今度は直通の速達列車「みずほ」にも乗ってみたいですね。