青森2012 その3・・・旧・南部縦貫鉄道「夕暮れ撮影会」撮影記 [鉄道旅行記]
10月末に行った、二泊三日の青森・鉄道旅。前回からの続きです。
弘前で迎えた二日目(10/27・土)は「撮り鉄」がメイン。まずは朝から弘南鉄道・大鰐線に乗って撮影地へ向かい、奥羽本線を走るブルートレイン「あけぼの」やリンゴ畑のなかを行く大鰐線などを撮影。ちょっとした地元の方との交流もあり、まさに「実りある」有意義な時間を過ごす事ができました。その後、奥羽線の石川から青森行きの下り普通列車に乗り、私が次に向かったのは東北新幹線との接続駅である新青森。
石川1116-(奥羽647M)-新青森1211
前日にも乗り換えで降りた
東北新幹線と奥羽線の接続駅、新青森。
ガラス越しにはホームに停車している
E2系新幹線の姿が見えます。
12.12.27 奥羽本線 新青森
津軽線や海峡線、青い森鉄道が接続する青森ならまだしも新青森なんかで下車するとは、もう東北新幹線に乗って東京へ帰ってしてしまうのか? ・・・と、思われるかもしれませんが、そうではありません。実はコレから行く目的地へは列車ではなくバスを利用する事になり、そのバスが新青森駅前から出ているのです。そしてその目的地と言うのが七戸駅。東北新幹線の「七戸十和田」駅ではなく、南部縦貫鉄道の「七戸」駅です。本来、目的地が鉄道の駅ならばその鉄道を利用するべきなのですが、この南部縦貫鉄道はすでに廃線となった過去の路線。もう乗る事は叶わないのです・・・。おそらく私と同世代以上の鉄ならば、この南部縦貫という路線名を聞いて懐かしいと感じ、さらにはパッと「アノ車両」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
南部縦貫鉄道と言えば、そう、この車両・・・。
95.3.12 南部縦貫鉄道 七戸
かつて青森県東部・上北郡にあった南部縦貫鉄道は、東北本線(現・青い森鉄道)の野辺地から内陸部の七戸までを結んでいた全長20.9キロ、非電化・単線のローカル私鉄。1961年(昭和36年)の開業当初は貨物輸送に期待がかかるも、製鉄所の閉鎖や計画倒れ、さらにはトラック輸送への移行などにより貨物は廃止されて経営難に。沿線はもともと住民の少ない地域で旅客輸送は見込めず、並行する国道にはバスが走っている事から、常に廃線が取りざたされていました。それでも南部縦貫が維持されていたのは、東北新幹線青森延長の際に七戸駅が設置される予定があり、新幹線アクセスにわずかな望みを託していたからでした。晩年はローカル線ブームなどで鉄道ファンが注目。とくにこの路線を走っていたのはただのディーゼルカーではなく、車体の小さな「レールバス」であったことから、その貴重な車両をお目当てに全国から多くのファンが集まりました。
野辺地付近を行く「レールバス」ことキハ10形(キハ102)。
95.3.12 南部縦貫鉄道 野辺地
しかし、東北新幹線の青森延伸は方向転換や見直しなどで計画よりも大幅に遅れ、ついに南部縦貫鉄道は力尽きて97年5月に運転休止、そして02年8月には正式に廃止となってしまいました(野辺地~西千曳の「路線借用・返却問題」は歴史や経緯などを書くと長くなるので割愛)。その後、東北新幹線が新青森延伸を果して途中駅の七戸十和田が開業したのは、一昨年(10年)12月。南部縦貫の休止から13年、廃止から8年目の事でした。
そんな南部縦貫鉄道へ私が乗ったのは今から17年前、95年3月の一度きり。しかも乗り潰し目的で野辺地から七戸までの片道を乗っただけです。終点が行き止まりの盲腸線なのに往復ではなく片道だけの乗車だったのは、南部縦貫を七戸まで乗ったあと、バスで十和田観光電鉄の十和田市へ出てしまったため。当時、この南部縦貫から十和田観光へ(またはその逆へ)抜けるのは乗り潰しの定番ルートでした。その十和田観光電鉄も今年の春に廃線となってしまったのは記憶に新しいところ。たった一度の片道乗車のみだった南部縦貫へは廃止前にもう一度くらい訪れたかったところですが、休止が発表された頃にはファンが一気に押し寄せ、休日ともなれば小さなレールバスは大混雑。とても再訪する気にはならなかったのです。でも今思えば、もっと沿線などでの写真を撮っておくべきだったなぁ・・・と後悔しています。結局私が残せたレールバスの写真は駅撮り程度でしたし。
野辺地から七戸までを乗り潰し、
七戸のホームで撮った「レールバス」。
このときの乗客は片手で数えられるほどだったと
記憶しています。
95.3.12 南部縦貫鉄道 七戸
さて閑話休題。私は乗り鉄、撮り鉄の趣味はあるものの、廃線跡巡りはあまりしません。ではなぜ今さら廃線となった南部縦貫鉄道の七戸へ、バスで目指す事になったのか。実は南部縦貫で活躍していたレールバスなどの車両たちは現在、旧・七戸駅構内で動態保存されており、定期的に一般公開や乗車体験(七戸駅構内の走行のみ)が行われているのです。廃線跡でも草むらを掻き分けて歩くようなのは気が進まないけれど、あのレールバスが見られるのならば話は別。しかもこの日は年に一度の「夕暮れ撮影会」で、そもそも今回の青森遠征はこのイベントへの参加が第一の目的で計画したものでした。しかし、旧・七戸駅は現在の七戸十和田駅とは少し離れた場所にあります。ではどうやって行ったらいいのかしらん・・・と、調べたところ、この新青森からのバスが行き方のひとつに記されていたのです。ホントは在りし日の南部縦貫に思いを馳せて、野辺地からのバスを利用しようかとも考えたのですが、バスの本数が少なくて時間的にちょっと難しかった。
新青森から七戸を経由して十和田市へ向かう
十和田観光電鉄バス。
このバスはバイパスの「みちのく有料道路」を通るため、
南部縦貫鉄道の始発駅だった野辺地は通りません。
12.10.27 十和田観光電鉄バス 新青森駅西口
鉄道と違ってバスの場合、なんとなく目的地に着けるのかどうか不安なところがあり、いちおうバスの運転士に「七戸へは行きますか?」と確認してから乗車。ちょうど紅葉が見頃を迎えている十和田湖行きのバス停には新幹線から流れてきた客が行列を作っていますが、こちらの十和田市行きは四、五人ほどの客を乗せて発車。一見して同業者らしき人は一人だけでした。バスは青森市内を抜けてバイパスの「みちのく有料道路」へと入り、新青森から一時間半ほどで七戸へ。
七戸が近づいてくると、
坪や中野、天間林など南部縦貫の駅名にもあった、
懐かしい地名が現れます。
坪は野辺地と七戸のちょうど中間あたりにあった駅。
七戸案内所でバスを降ります。
案内所って何?と思っていましたが、要はバスターミナル。
12.10.27 十和田観光電鉄バス 七戸案内所
新青森駅西口1259-(十和田観光電鉄バス)-七戸案内所1445
七戸のメインバスターミナルである七戸案内所で下車。たぶん17年前はここから十和田市へと向かうバスに乗ったのだと思いますが・・・まったく覚えがありません (-ω-)ゞヴーン…。それとも当時は七戸駅から直接バスが出ていたのかな・・・? ともかく七戸の名が付くバス停には着いたけれど、旧・七戸駅の場所が解らない。でも、先ほどのバスに乗り合わせた方は場所を知っているらしく、迷わずにスタスタ歩いてゆきます。これは心強いとばかりに、私はその後をヘコヘコ付いてゆく事に 。(・ω・。*)))))ヘコヘコ... 。まあ、こんな町で大きな三脚を担いでいるのですから、同業者と見てまず間違いないでしょう。思惑通り10分ほど歩いたところに、旧・七戸駅はありました。
南部縦貫鉄道廃止後も変わらぬ姿で佇む、旧・七戸駅。
現在は南部縦貫株式会社と言うタクシー事業(縦貫タクシー)の
本社として稼働しています。
12.10.27 旧・南部縦貫鉄道 七戸
駅舎内には当時使われていた標識や通票閉塞機
さらには手書きながら当時の時刻表が展示されています。
列車の運転本数は一日五往復でした。
12.10.27 旧・南部縦貫鉄道 七戸
そのコンクリート製の駅舎には確かに見覚えがあり、思わず懐かしさが込み上げてきます。17年前に訪れた時は雪が積もっていて、待合室にはストーブが置かれていたっけ・・・。そんな事を思い出しながら「見学受付」と書かれた駅舎内へ入ります。しかし、とくに何か手続きをする事は無く「そのまま、会場へどうぞ」と言われ、待合室を抜けてかつてのホームへ。そこで待っていたのは、もちろんあのレールバス!
17年ぶりにレールバスとご対面!(≧ω≦。)ジーン…。
見た目は変わらないけれど、左がキハ101で、右がキハ102。
今年は1962年の開業からちょうど50周年で、
両者には新規に制作されたヘッドマークが掲げられていました。
12.10.27 旧・南部縦貫鉄道 七戸
ちゃんとエンジンがかけられ、ライトを点灯させた状態のレールバス。まるで現役さながらの光景です。レールバスことキハ10形は開業当初からキハ101と102の二台体勢で活躍し続け、現在もそのまま二台とも動態保存されています。近年は、非電化ローカル線で広く活躍する小型の軽快気動車を「レールバス・タイプ」と呼び、弊ブログでも最近はひたちなか海浜鉄道の3710形や津軽鉄道の津軽21形などを「レールバス・タイプ」として紹介してきましたが、軽快気動車はあくまでも扉やサッシ、空調設備などの内装にバスとの共通部品が使われているだけで、構造的にはれっきとした鉄道車両(鉄道車両工法)。しかしこの南部縦貫のレールバスは、バスの車体、構造、部品を多用したバス工法で製造された車両で、最大の特徴は機械式変速機を搭載し、まるでマニュアルのクルマのようなクラッチとシフトレバーを操作しながら運転するところにあります。言うなればまさに車輪をはいたバス。だから「レールバス」なのです。ちなみに製造元はバスの製造で定評のあった「富士重工・宇都宮製作所(1962年製)」。保存車ながら現在も動態で残っているレールバスはこの南部縦貫の二両のみで、本当に貴重な存在と言えるでしょう。しかも一台のみならず二台同時に保存ってところが嬉しいですよね。さらに南部縦貫ではこのほかにも国鉄から譲渡された一般型気動車のキハ104(元・国鉄キハ10)や除雪用の小型ディーゼルも同じく動態保存されていますが、この日展示されていたのは二台のレールバスのみ。それでもこのレールバスがお目当てで来たのですから、じゅうぶんです。それではしばし、イベントの様子をご覧ください。
まずは両者の並びを楽しもう・・・と思っていた矢先、
左のキハ101がエンジンを震わせて動き出してしまいました。
あれ?ドコ行くの~?? ε~ε~┌(;´Д`)ノ マ、マッテェェェ
キハ101は機関庫前の側線から、旧・本線へと移動。
本線は七戸駅構内の約260メートルが残されていて、
動態保存の名の通り、運転実演が行われます。
分岐器と連動はしないものの、腕木式信号機も健在
(点灯はします)。
「プワーン」という汽笛ではなく、
「ビーーー」というクラクションのような警笛を鳴らし、
短い距離ながらも、力強い走りを見せるレールバス。
ヘッドマークを換えて、もう一往復。
傾きかけた西日がちょうどレールバスの正面を照らします。
ウーン(´▽`)カコイイ!
キハ101が運転実演を行っているいっぽう、
こちらはアイドリング状態で静かに佇むキハ102。
風になびく排気煙がイイ感じです。
慎重に平衡をとって、キハ102を真横から狙ってみました。
10.3メートルの短い車体、折り戸、バス窓、二軸式の車輪・・・
レールバスの特徴がよく解ります。
ちなみに、このクリームとオレンジのツートンカラーは
南部縦貫開業当初に出資していた
京成電鉄の赤電カラーを参考にしたものらしい。
なかなか面白い経緯ですね。
今度は逆光側から広角で。
こちら側には「鉄道むすめ」のマークが掲げられています。
鉄道むすめって現役路線じゃなくてもいるのね・・・(^^;)。
運転実演を終えたキハ101と
終始展示に徹したキハ102のツーショット。
この後キハ102は機関庫内へしまわれて、
キハ101は日没までホームへ据え付けられます。
対向ホームには大きなモミジの木があります。
ちょっと紅葉のピークには早かったけれど、
レールバスのいい引き立て役になってくれました。
ホームで扉を開き、発車を待つレールバス・・・の図。
前述したように私は下り列車の片道しか乗っていないので、
七戸からレールバスに乗り込む事はありませんでした・・・。
扉が開かれている間は車内が開放されています。
室内は両側にロングシートが並ぶ構造。
広角で撮っているので広いように見えますが、
実際はかなり狭いです。
簡素なレールバスの運転台。
バス構造と言っても鉄道なので当然ハンドルはなく、
手前の縦棒がマスコンレバー(アクセル)で右がブレーキ。
足下のペダルがクラッチです。
右脇にあるはずのシフトレバーは取り外されていました。
あれって着脱可能だったのですね。。。
日没直前にはヘッドマークが外されて、ノーマルな状態に。
夕日で赤く染まったレールバスが美しい・・・。
乗車体験こそ無かったものの、運転実演やヘッドマークを差し替えての撮影会、車内見学など、レールバスの魅力が存分に味わえるイベント内容。ファンの数も思っていたほど多くなく終始まったり状態だったし、何よりもこの日は本当にいいお天気に恵まれて最高の状態でレールバスを撮ることができました。もうこれだけでも大満足でオナカいっぱいなのですが、「夕暮れ撮影会」のお楽しみはまさにこれから。やがてレールバスを照らし続けていた太陽は、西の彼方へと沈んでゆきました。
日が沈み、あたりが薄暗くなると、
空にはハッキリとお月様の姿が見えるようになりました。
この日は旧暦の9月13日で、ちょうど十三夜です。
お月見というと旧暦8月15日の十五夜が有名ですが、
日本では古来から十三夜の月も美しいといわれ、
地域によっては十三夜にお月見やお祭りを
するところもあるのだそうです。
ブルートーンに包まれた七戸駅構内。
駅名板が照明によってライトアップされました。
なかなか心憎い演出です。
でも、ちょっとレールバスのヘッドライトが強いかな・・・。
今度はテールランプに切換え。
ホームに佇むレールバスには、コッチの方がイイ感じです。
まわりには何人ものファンが集まっていますが、
みなさん黙々と撮影に集中していて、
耳に入ってくるのはカメラのシャッター音と
レールバスのアイドル音、そして虫の鳴き声だけ。
せっかくの十三夜、
やっぱり名月を入れなきゃもったいない。
でもちょっと月が明るすぎたので、
雲がなびいてきたところでシャッターを切ってみました。
イイ感じになったかな?
レールバスは再びヘッドライトを点灯。
車内もホームを照らす電灯も暖かみのある白熱灯で、
とてもいい雰囲気を醸し出しています。
気がつけば、あたりはすっかり真っ暗になり、
闇に浮かび上がるレールバスとモミジの木。
紅葉には少し早いと感じていましたが、
こうやってみると緑から赤への移り際も
なかなか美しいものがあります。
10月終わりの青森、日没後はグッと冷え込んできます。それでも集まった人たちはほとんど帰ることなく、真っ暗になるまで思い思いのアングルで撮影を楽しんでいました。南部縦貫鉄道がその歩みを止めた運転休止から13年もの長い歳月が流れたにもかかわらず、今を持って美しい姿を保ち続けるレールバス。これもひとえに現・南部縦貫株式会社と南部縦貫レールバス愛好会の愛着とご尽力に他なりません。もうレールバスが本線上を走る姿は見られませんが、いつまでもこのようなイベントが開かれ、南部縦貫鉄道の存在を後世に語り継いでいって欲しいものです。
イベントへの参加は無料ですが、
やはりここはグッズ等の購入で
少しでもレールバスの保存・維持に貢献したいところ。
駅舎内で販売されていたオリジナルグッズの中で、
私が気に入ったのはこのシブい、社名入りのトートバック。
今では仕事で資料の持ち運びに重宝しています。
その他、硬券入場券なども購入してきました。
さて、イベントは午後6時半まで行われていますが、私はちょっと早めに撤収。というのも、十和田観光電鉄バスの青森行きは七戸案内所発18時18分が最終で、コレに乗り遅れるわけには行きません。駅舎内でグッズの販売をされていた愛好会の方々にご挨拶して駅舎の外へ。17年前にこの駅舎を出た時は、きっともう二度と来ることはないだろうと思っていたはず。しかし今回は、絶対にまた再訪しようと心に誓い、七戸駅を後にするのでした。
七戸案内所1818-(十和田観光電鉄バス)-青森駅1934
行きと同様にバイパス経由で、青森駅までは一時間半。
この日は青森に一泊します。
12.10.27 奥羽本線 青森
今宵は青森の地酒「田酒」をいただきます。
突き出しは和布蕪と、今年初物だというナマコ(左)。
体が冷えていたので温かいものが食べたいというと、
大将はカレイの一夜干しを焼いてくれました。
・・・もうちょっとだけ、続きます。